夢見るマリー

【タイトル】
夢見るマリー
※タイトルは仮

【主な登場人物】
・マリー
 女性型のロボット。見た目は20歳前半位。

・早川カイト
 幼くして両親を事故で亡くた男児。マリーに育てられる。

・早川ケイジ
 カイトの祖父。マリーの開発者。
※名前は仮

【プロット】
真っ暗な闇の中。
やがてかすかな機械音と電子音が響く。
闇の中に光が射す。
次第に焦点が合ってくる。
ケイジがこちらを覗きこんでいる。

ケイジ「どうやら上手く起動したようじゃの。」

マリー、ケイジの研究室のベッドに横たわっている。
ベッドはたくさんのチューブやコードが繋がっている。

ケイジ「気分はどうかね、マリー。」

マリー「マリー…?」

ケイジ「君の名前じゃよ。」

マリー「私の…名前…。」

マリー、ベッドから身を起こす。

マリー「あなたは…?」

ケイジ「ワシは早川ケイジ。君を作った創造主、と言った所かの。
    君はワシの開発した人工知能を搭載した、謂わばロボットじゃよ。」

マリー「ロボット…。」

ケイジ「よかった。どうやら間に合ったようじゃ。
    立てるかの?マリー、君に頼み事があるんじゃ。」


自宅の居間。ベビーベッドに赤ん坊(カイト)が寝ている。
その脇に立つ、マリーとケイジ。

マリー「ケイジさん、この子は?」

ケイジ「カイト。ワシの孫じゃよ。
    …両親を事故で亡くしてな…。
    ワシも余命は長くないと言われている。
持って数ヶ月じゃろう。」

マリー「…。」

ケイジ「頼みというのは、君にこの子の母親になってもらいたいんじゃ。」

マリー「私に、ですか?」

ケイジ「そうじゃ。」

マリー「機械である私に、心を持たない私には、母親役は無理だと思います。」

ケイジ「心が人間にしかないとは、ワシは思わんがの。
    少なくとも、そういう信念で君を作ったつもりじゃ。」

マリー「ですが…。」

ケイジ、カイトを抱きかかえて

ケイジ「ちょっとカイトを抱っこしてみてくれんかの?」

ケイジ、カイトをマリーに差し出す。
マリー、促されるままカイトを受け取る。
マリー、受け取ったはいいが、そこからどうすればいいか分からず困惑する。
ケイジ、抱っこのポーズをして

ケイジ「さっきワシがやってたようにするんじゃよ。」

マリー、見よう見まねでカイトを抱っこする。

カイト、夢でも見ているのか、笑顔になる。
マリー、その表情を見て、少しやさしい表情になる。
マリー、ケイジの方を見て

マリー「わかりました。やってみます。」

ケイジ「やってくれるか。」

マリー「ですが、やはり母親役は自信がないので
    この家のお手伝いという事でもいいでしょうか?」

ケイジ、少し思案して

ケイジ「わかった。よろしく頼んだよ。」


数ヵ月後。
マリー、仏壇の前に正座し、手を合わせている。
マリー、立ち上がり、ベビーベッドに寝ているカイトを覗き込む。
カイト、寝ている。
マリー、横に座る。
周りには育児関係の本や子供をあやす道具等が散らばっている。
マリー、本を手に取り読み耽る。
カイト、突然泣き出す。
マリー、驚いて立ち上がり、あたふたしてガラガラであやしてみる。
カイト、泣き止まない。
マリー、色々な道具であやしてみるが、一向に泣き止まない。
マリー、しばし思案した後、何かに合点がいって、両手を軽く合わせる。
マリー、カイトをベッドから床に移して、おしめを替え始める。
カイト、おしめを替え終わると、気分が良くなったのか泣き止む。
マリー、一息つく。
カイト、気持ち良さそうに寝ている。
マリー、カイトを覗き込んで、頬を指でつつく。
マリー、微笑んでカイトを見つめる。


数年後。
マリー、ベッドでカイトに絵本(鶴の恩返し)を読み聞かせている。
傍らのカイト、5歳に成長している。

マリー「…ツルの姿に戻った娘は、一声鳴くと、遠くへと飛び去ってしまいました。
    おしまい。」

カイト、マリーを見上げて

カイト「ねえ、マリー。どうしてツルはいなくなってしまったの?
    ツルのままでも、おじいさんとおばあさんと一緒にいれないの?」

マリー「さあ、どうでしょう。ツルは人間ではない自分が、人間の中では
    生きていけないと思っているのかもしれませんね。」

カイト「そんなことないよ。このツルはいいツルだから、きっと大丈夫だよ。
    そうだよね、マリー?」

マリー、カイトの頭をなでて、少し悲しそうに

マリー「ええ…そうですね…。」

マリー、気を取り直して

マリー「さあ、もう遅いですよ。明日も幼稚園ですし、もう寝ましょう。」

マリー、電気を消して、床に付く。
カイト、早くも寝息をたてている。
マリー、じっと天井を見上げている。

カイト「マリー…」

マリー、カイトを見る。
カイト、寝言を言う。

カイト「いなくなっちゃイヤだ…。」

マリー、悲しそうな表情でカイトを見る。


さらに数年後。
10歳になったカイト、ランドセルを背負って、小学校からの通学路を歩いている。
カイトの頭に何かぶつかる。
カイト、後ろを振り返る。
地面にネジが落ちている。
カイト、その先に視線を向けると、同級生の男子が二人いる。

同級生1「おい、そのネジ、お前の頭のネジだろ!?」

カイト「えっ…。」

同級生1「近所の人が言ってたぞ。お前がロボットに育てられてるって!」

カイト「なっ…そんな訳ないだろ!」

同級生2「お前もホントは機械で出来てんじゃねーの?」

同級生1「どっかにスイッチがあるんだろ?」

カイト「適当な事言うな!」

カイト、その場を走り去る。
後ろから同級生の笑い声が聞こえてくる。
カイト、自宅に駆け込む。

カイト「マリー!」

カイト、靴を脱ぎ、ダイニングの扉を開ける。

カイト「マリー!」

マリー、テーブルの椅子にうなだれるように座っている。
手にはペンを持ち、テーブルの上の紙に何か書いている姿勢のまま止まっている。
テーブルには鍵も置かれている。
カイト、マリーの側まできて、肩に手をかけて揺する。

カイト「マリー…。」

マリー、返事もなく、椅子に座ったままうなだれている。

カイト「どうしたの…?」

カイト、視線をテーブルに移し、書きかけと思われる紙を手に取る。
カイト、そこに書かれているものを読む。

『カイトへ
 
 私はカイトに言えなかった事があります。
 言わなければならないと分かっていたのですが、どうしても言えませんでした。
 
 ごめんなさい。
 
 私は人間ではなく、カイトのおじいさんに作られたロボットです。』

カイト、動揺を隠せず

カイト「そんな…、マリーが、ロボット…?」

カイト、手紙の続きを読む。

『カイトのおじいさんに頼まれて、私は生まれて間もないカイトを育てる事になりました。
 人間ではない私が、人間の心を知らない私が、子供を育てる事ができるのか不安でした。
 でもカイトは私の行動ひとつひとつに、笑ったり泣いたりして答えてくれました。
 カイトと一緒に暮らす中で、私も人間の心が理解できるような気がしていました。

 ですが、私の動ける時間は10年位しかないという事です。
 私は、とてもめずらしいエネルギーで動いているらしく、今の技術では
 そのエネルギーを新しく作るのは難しいという事です。

 鍵は地下にある、おじいさんの研究室のものです。
 金庫の中に貯えがあります。
 ぜいたくしなければ、大人になるまでは何とかなると思います。
 
 カイトとの暮らしは私にとって、かけがえのないものでした。
 もしロボットである私にも、何かを望む事が許されるなら、カイトの母親に』

文字はそこで途切れている。
カイト、涙が溢れてくる。

カイト「僕は…バカだ。…ずっとマリーと一緒にいたのに…マリーはいつも僕の事を
    見ていてくれたのに…。僕はマリーの気持ちに何も気づかなかった。
    マリーがロボットだって関係ない。マリーは僕を育ててくれた、お母さんだ。」


ケイジの研究室。
カイト、鍵で扉を開き、部屋の中に入る。
カイト、部屋の中を一通り見て周る。
カイト、本棚の前で立ち止まる。
本棚には、たくさんの本や研究資料等がある。
カイト、その中の一冊を手に取り、机に運び、本を開く。
カイト、決意に満ちた表情をしている。


真っ暗な闇の中。
やがてかすかな機械音と電子音が響く。
闇の中に光が射す。
次第に焦点が合ってくる。
ケイジに似た老人がこちらを覗きこんでいる。

老人「気分はどうだい?」

マリー、ケイジの研究室のベッドに横たわっている。

マリー「ケイジ…さん?」
    …少し、身体が重いです。」

老人「少し横になってるといい。」

マリー「私、夢を見ていました。
    …ロボットが夢を見るなんておかしいですよね。
    でも、私のストレージに映像の断片があるのです。」

老人「聞かせてくれないか?」

マリー「そうですね。
    …私は、母親で…息子がひとりいたんです。
    やっぱりおかしいですね。ロボットが母親になれるわけがないのに。
    …でも…とても幸せでした。」

老人、こみ上げてくるものを堪える。

マリー「ある朝、あの子がおねしょをした時は、とても落ち込んでいて
    どうやって慰めればいいのか分からなくて…」

マリー、楽しげに話し続ける。
老人、頷きながらマリーの話を聞いている。

老人:モノローグ「ああ…。やっとだ。
         やっと夢が叶う日がきた。
         どうしても、伝えたい言葉があったんだ。」

老人、マリーの言葉を遮るように

老人「マリー。」

マリー「はい?」

老人、涙を流し首を横に振り、声を絞り出す。

老人「…お母さん。」

マリー、一瞬驚くが、すぐに理解し、優しく微笑む。

マリー「そうですか。立派になりましたね、カイト。」

老人、泣きながら

老人「どうしても、伝えたかったんだ…。
   ありがとう。お母さん。」

マリー、手を伸ばし、老人の頭をなでる。

マリー「カイト、よくがんばりましたね。
    あなたは私の自慢の息子です。」

老人、泣き続ける。
マリー、優しく老人の頭をなで続ける。

カイト:モノローグ「ありがとう。お母さん。
          マリーがお母さんで、僕は本当に幸せだったんだ。」

<おわり>

見上げた空に

【タイトル】
見上げた空に
※タイトルは仮

【主な登場人物】
・夏彦(弟)
・琴音(姉)
・女性(二十歳位)
※名前は仮

【プロット】
病院の一室。
12歳位の少女(琴音)がベッドに寝ている。
その傍らには8歳位の少年(夏彦)がいる。

琴音「今日も水泳教室だったの?」

夏彦「うん。今日も僕が一番だったよ。」

琴音「夏彦なら世界で一番になれちゃうかも。」

夏彦「世界で?」

琴音「そうだ。」

琴音、横の机からカラフルな銀紙に包まれた
ウズラ卵のようなものを取り出す。

夏彦「あっ、トゥインクルチョコレート!」

琴音、夏彦にチョコを手渡す。

琴音「開けてみて。」

夏彦、銀紙を取り、卵型のチョコを半分くらいかじる。
中には星型のコンペイトウのようなものが入っている。
夏彦、星型のお菓子を琴音に渡す。

琴音「すごい!大きいのは中々出ないのに。」

夏彦、得意気に

夏彦「へへ…」

琴音、星型のお菓子を開いた窓の空に掲げる。
琴音、何か言葉を発する。
夏彦、それを聞いて何か返答する。
二人の笑顔。


昼下がり。一雨きそうな空模様。
商店街を歩く男子高校生(夏彦)。
右腕にはギプスをしている。

商店街の一角に笹があり、たくさんの短冊が掛かっている。
脇のテーブルには短冊やマジック等が置かれている。

夏彦、立ち止まり、横目にそれらを見る。
夏彦、周りを気にしつつ、意を決して丸椅子に座り、短冊とマジックを手繰り寄せる。
夏彦、口でマジックのふたを取り、短冊に文字を書こうとする。
が、左手ではうまく書けない。
夏彦、しばし奮闘の後、イライラしてきて、短冊をくしゃくしゃにする。
夏彦、横目でカバンにぶら下がっている定期入れを見て、開く。
中には子供の頃の夏彦と琴音の笑っている写真が入っている。
夏彦、空を見上げる。

空から、雨粒が落ちてくる。
やがて細かい雨が止め処なく降ってくる。


公園の藤棚。
その下のベンチに一人の女性が座っている。
そこへ、夏彦が小走りに雨宿りに入ってくる。
夏彦、多少気まずさを感じつつも、若干距離を取り
何するわけでもなく空を見て立っている。

突然、女性が独り言とも取れるような言葉を発する。

女性「雨…。」

夏彦、軽く驚きつつ、女性を見て

夏彦「えっ…。」

女性「せっかく今日は七夕なのに。」

夏彦「はあ…。」

女性、夏彦の腕を見て

女性「…腕、大丈夫?」

夏彦「はい。水泳の練習中にちょっと。」

女性「そうなんだ…。
   今日は七夕だし、早く治るようお願いしてみてもいいかもね。」

夏彦、苦笑いで

夏彦「…最近は記録も頭打ちで、そっちをお願いしたほうがいい気がしてます。」

しばしの沈黙。

女性「そうか…。」

女性、空を見て

女性「でもこんな天気だと、織姫と彦星の逢瀬を見ることもできないね。」

夏彦「織姫彦星から見れば、こんな辺境の地の天気なんて、どうでもいい事だと思いますが。」

女性「それもそうね。でも、世の中には面白い事を考える人もいて、物事は観測者がいて
   はじめてその事象が定義される、という考え方もあるんだって。」

夏彦「は?」

女性、いたずらっぽく笑いながら

女性「織姫と彦星も誰かが観測してはじめて、逢瀬が叶うという見方もできるのよ。」

夏彦「はあ。まるで織姫と彦星の逢引きを実際見てきたような口ぶりっすね。」

女性、否定も肯定もせずひとしきり笑った後

女性「でも、誰かが自分の事を忘れないで見ていてくれるのは
   とても救われた気持ちになると思わない?」

夏彦、ハッとする。

女性「少なくとも、私はそうだな。…そうだ。」

女性、ポケットから銀紙に包まれた卵型の物を取り出す。

夏彦「それは…。」

女性、銀紙をはがしながら

女性「このチョコレート、子供の頃はよく買ってもらったけど、最近はあまり
   見かけなくなったね。」

女性、チョコレートを半分ほどかじる。
女性、中身の星型のお菓子を取り出し、立ち上がる。

女性「ちょっとこっちへ来て。」

夏彦、神妙な面持ちで女性の側へ近づく。
並ぶと夏彦の方が頭1つ背が高い。
女性、夏彦を見上げる。
夏彦、少し緊張する。
女性、そのまま空を向く。

女性「雨、止んだね。」

気づけば、雨は止み、夕暮れの空が広がっている。
女性、ベンチの上に昇り、手に持っていた星型のお菓子を空に掲げる。
夏彦、その光景を見て、あの日の病院のシーンを思い出す。

病室で、琴音が星型のお菓子を窓の空に掲げた場面。

琴音「ほら、見て。一番星。」

夏彦「ホントだ!」

琴音「夏彦が、世界で一番をとれますように…。」

夏彦「姉ちゃんの病気が良くなって、カナヅチも治りますように!」

琴音「ふふ…。」

夏彦「ハハ…。」

夏彦、琴音「アハハ…。」

夏彦、我に返る。

女性、寂しそうな笑顔で

女性「夏彦、私はずっと夏彦の事を見てるからね。」

夏彦、涙が一筋流れる。

夏彦「姉ちゃん…。」

次の瞬間、その場には夏彦だけが立っている。
夏彦、涙をこらえてうつむく。
ベンチには星型のお菓子が置かれている。
夏彦、それを拾い、握り締める。

夏彦「ありがとう…姉ちゃん。」

夏彦、涙を拭き、空を見上げる。
夕暮れの空には、いくつかの星が瞬いている。


商店街。
先ほどの笹に掛かった短冊の中に、ひとつだけ皺だらけの短冊が掛かっている。
その短冊には、たどたどしい文字で
『もう一度姉ちゃんに会いたい』
と書かれている。

<おわり>