見上げた空に

【タイトル】
見上げた空に
※タイトルは仮

【主な登場人物】
・夏彦(弟)
・琴音(姉)
・女性(二十歳位)
※名前は仮

【プロット】
病院の一室。
12歳位の少女(琴音)がベッドに寝ている。
その傍らには8歳位の少年(夏彦)がいる。

琴音「今日も水泳教室だったの?」

夏彦「うん。今日も僕が一番だったよ。」

琴音「夏彦なら世界で一番になれちゃうかも。」

夏彦「世界で?」

琴音「そうだ。」

琴音、横の机からカラフルな銀紙に包まれた
ウズラ卵のようなものを取り出す。

夏彦「あっ、トゥインクルチョコレート!」

琴音、夏彦にチョコを手渡す。

琴音「開けてみて。」

夏彦、銀紙を取り、卵型のチョコを半分くらいかじる。
中には星型のコンペイトウのようなものが入っている。
夏彦、星型のお菓子を琴音に渡す。

琴音「すごい!大きいのは中々出ないのに。」

夏彦、得意気に

夏彦「へへ…」

琴音、星型のお菓子を開いた窓の空に掲げる。
琴音、何か言葉を発する。
夏彦、それを聞いて何か返答する。
二人の笑顔。


昼下がり。一雨きそうな空模様。
商店街を歩く男子高校生(夏彦)。
右腕にはギプスをしている。

商店街の一角に笹があり、たくさんの短冊が掛かっている。
脇のテーブルには短冊やマジック等が置かれている。

夏彦、立ち止まり、横目にそれらを見る。
夏彦、周りを気にしつつ、意を決して丸椅子に座り、短冊とマジックを手繰り寄せる。
夏彦、口でマジックのふたを取り、短冊に文字を書こうとする。
が、左手ではうまく書けない。
夏彦、しばし奮闘の後、イライラしてきて、短冊をくしゃくしゃにする。
夏彦、横目でカバンにぶら下がっている定期入れを見て、開く。
中には子供の頃の夏彦と琴音の笑っている写真が入っている。
夏彦、空を見上げる。

空から、雨粒が落ちてくる。
やがて細かい雨が止め処なく降ってくる。


公園の藤棚。
その下のベンチに一人の女性が座っている。
そこへ、夏彦が小走りに雨宿りに入ってくる。
夏彦、多少気まずさを感じつつも、若干距離を取り
何するわけでもなく空を見て立っている。

突然、女性が独り言とも取れるような言葉を発する。

女性「雨…。」

夏彦、軽く驚きつつ、女性を見て

夏彦「えっ…。」

女性「せっかく今日は七夕なのに。」

夏彦「はあ…。」

女性、夏彦の腕を見て

女性「…腕、大丈夫?」

夏彦「はい。水泳の練習中にちょっと。」

女性「そうなんだ…。
   今日は七夕だし、早く治るようお願いしてみてもいいかもね。」

夏彦、苦笑いで

夏彦「…最近は記録も頭打ちで、そっちをお願いしたほうがいい気がしてます。」

しばしの沈黙。

女性「そうか…。」

女性、空を見て

女性「でもこんな天気だと、織姫と彦星の逢瀬を見ることもできないね。」

夏彦「織姫彦星から見れば、こんな辺境の地の天気なんて、どうでもいい事だと思いますが。」

女性「それもそうね。でも、世の中には面白い事を考える人もいて、物事は観測者がいて
   はじめてその事象が定義される、という考え方もあるんだって。」

夏彦「は?」

女性、いたずらっぽく笑いながら

女性「織姫と彦星も誰かが観測してはじめて、逢瀬が叶うという見方もできるのよ。」

夏彦「はあ。まるで織姫と彦星の逢引きを実際見てきたような口ぶりっすね。」

女性、否定も肯定もせずひとしきり笑った後

女性「でも、誰かが自分の事を忘れないで見ていてくれるのは
   とても救われた気持ちになると思わない?」

夏彦、ハッとする。

女性「少なくとも、私はそうだな。…そうだ。」

女性、ポケットから銀紙に包まれた卵型の物を取り出す。

夏彦「それは…。」

女性、銀紙をはがしながら

女性「このチョコレート、子供の頃はよく買ってもらったけど、最近はあまり
   見かけなくなったね。」

女性、チョコレートを半分ほどかじる。
女性、中身の星型のお菓子を取り出し、立ち上がる。

女性「ちょっとこっちへ来て。」

夏彦、神妙な面持ちで女性の側へ近づく。
並ぶと夏彦の方が頭1つ背が高い。
女性、夏彦を見上げる。
夏彦、少し緊張する。
女性、そのまま空を向く。

女性「雨、止んだね。」

気づけば、雨は止み、夕暮れの空が広がっている。
女性、ベンチの上に昇り、手に持っていた星型のお菓子を空に掲げる。
夏彦、その光景を見て、あの日の病院のシーンを思い出す。

病室で、琴音が星型のお菓子を窓の空に掲げた場面。

琴音「ほら、見て。一番星。」

夏彦「ホントだ!」

琴音「夏彦が、世界で一番をとれますように…。」

夏彦「姉ちゃんの病気が良くなって、カナヅチも治りますように!」

琴音「ふふ…。」

夏彦「ハハ…。」

夏彦、琴音「アハハ…。」

夏彦、我に返る。

女性、寂しそうな笑顔で

女性「夏彦、私はずっと夏彦の事を見てるからね。」

夏彦、涙が一筋流れる。

夏彦「姉ちゃん…。」

次の瞬間、その場には夏彦だけが立っている。
夏彦、涙をこらえてうつむく。
ベンチには星型のお菓子が置かれている。
夏彦、それを拾い、握り締める。

夏彦「ありがとう…姉ちゃん。」

夏彦、涙を拭き、空を見上げる。
夕暮れの空には、いくつかの星が瞬いている。


商店街。
先ほどの笹に掛かった短冊の中に、ひとつだけ皺だらけの短冊が掛かっている。
その短冊には、たどたどしい文字で
『もう一度姉ちゃんに会いたい』
と書かれている。

<おわり>