ウィツマールの姉弟



プロローグ


 その街に辿り着いたときのことを、メリッサはよく覚えていない。

 叩きつけるようなひどい雨の日だった。生まれてこのかた旅なんてしたことのなかったメリッサには、安宿の粗末な寝台で眠ることも一日歩き通して足にマメができるのも、何もかもが不慣れで戸惑うことの連続で、お金の節約のしかたもよくわからず、路銀はとうに使い果たしていた。くたくたに疲れて、冷たい雨に体力を奪われて、このまま死んでしまったらどうしよう、とぼんやりした頭の片隅で考えた。
 マールが大きな声で何か叫んでいたのは、なんとなく覚えている。後になって聞いた話によると、ぐったりしたメリッサをマールが引きずって、なんとか街に運び込んだのだそうだ。

 マール。わたしたちの大事な弟。

 ねえ、ウィツ。あなたが教えてくれた“望遠鏡の街”に、わたしはちゃんと辿り着いたよ。この街の動力は、フィラードという不思議な宝石によってまかなわれている。
 ここならきっと、方法が見つかる。フィラードは、マールを動かしている鉱石とよく似た力を持っているから。

 わたしは絶対に、マールをただの抜け殻になんかしない。





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